執筆・編集:シオン
在宅ワークの座りっぱなし対策で大切なのは、運動を新しく始めることよりも、「座る時間の途中に体を動かす場面を、決まった行動の直前や直後に差し込むこと」です。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意することを推奨事項のひとつに挙げています。ただし、ガイドは「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」ことも同時に求めています。この記事は、その考え方に沿って、家の中でできる動き方と続け方を整理したものです(参照:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)」)。
通勤や社内の移動がなくなった在宅ワークでは、意識しないかぎり一日の大半を椅子の上で過ごしやすくなります。この記事では、公的資料が座位行動をどう定義し、成人と高齢者にどんな推奨値を示しているのかを先に確認し、そのうえで、台所・玄関・階段といった家の中の場所を使った動き方、記録のつけ方、続けるための仕組みまでを順に扱います。
この記事に出てくる一日の過ごし方や記録の例は、読者の状況に合わせて組み立てた「仮の例」です。特定の人の体験談や記録ではありません。また、医療や運動指導の専門的な判断を代わりに行うものではなく、持病や痛みがある方は、次の章以降の注意点と、かかりつけの医師などへの相談を優先してください。
在宅ワークで座る時間が長くなりやすい理由
在宅ワークで座る時間が長くなりやすいのは、通勤・移動・席を立つ用事といった「自然に体を動かす場面」が、仕事の仕組みから消えてしまうためです。意志の強さではなく、環境の設計の問題として考えると、対策も立てやすくなります。
出社していた頃を思い出すと、駅まで歩く、階段を使う、会議室へ移動する、コピー機まで書類を取りに行く、昼食を買いに外へ出る、といった動きが、仕事の一部として自動的に発生していたはずです。在宅ワークでは、パソコンの前で完結する仕事が増えるほど、こうした動きが一つずつ消えていきます。自宅は生活の場でもあるので、仕事が終わったあとも、ソファに座ってスマートフォンを見る流れになりやすいところも見逃せません。
厚生労働省のe-ヘルスネットは、座位行動について、余暇のテレビ視聴やゲームだけでなく、仕事中の会議やパソコン使用によるデスクワークも、座りすぎの場面として挙げています(参照:e-ヘルスネット「座位行動の定義とその実態」)。つまり、仕事中の座りっぱなしと、仕事後のくつろぎ時間の座りっぱなしは、別々の問題ではなく、合算して考える対象です。
この章のポイントは、「座る時間が長いのは自分の怠けではない」と先に切り分けておくことです。そうすると、以降の対策を「気合いで頑張る」ではなく、「動く場面を仕組みとして戻す」という作業として進められます。オンとオフの切り替え全般を整えたい場合は、終業の儀式や境界線の作り方をまとめた記事もあわせて読むと、仕事後の過ごし方を組み立てやすくなります。
座位行動とは何か|公的資料の定義を確認する
座位行動とは、座った状態や横になった状態で行われる、エネルギー消費が1.5メッツ以下のすべての覚醒中の行動のことです。「座りっぱなし」という言葉はこの座位行動を指しており、デスクワークのほか、座ったり寝ころんだりしてテレビやスマートフォンを見ることも含まれます。
厚生労働省のガイド2023は、座位行動を「座位や臥位の状態で行われる、エネルギー消費が1.5メッツ以下の全ての覚醒中の行動」と説明し、例としてデスクワークをすることや、座ったり寝ころんだ状態でテレビやスマートフォンを見ることを挙げています。なお、メッツとは身体活動の強度を表す指標で、安静に座っている時を1メッツとして、その何倍のエネルギーを消費するかを示します(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要))。
ここで押さえておきたいのは、「運動」と「座位行動」は正反対の概念ではなく、別の軸だという点です。ガイドは、身体活動を「安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する骨格筋の収縮を伴う全ての活動」とし、その中に日常の家事・労働・通勤などの「生活活動」と、健康や体力の維持を目的とした計画的な「運動」があると整理しています。座位行動は、その身体活動の外側にある、動いていない時間を指す言葉です。
次の表は、ガイド本編の巻末にあるメッツ表から、在宅で出てくる行動をいくつか拾い、座位行動かどうかの位置づけを整理したものです。表の数値は、国立健康・栄養研究所の「身体活動のメッツ(METs)表」を改変してガイドに載せられているものです(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
| 在宅での行動 | ガイドの表にあるメッツ値 | 位置づけ |
|---|---|---|
| パソコンで作業する、座ってスマートフォンを見る | 1.5メッツ以下の覚醒中の行動として例示 | 座位行動 |
| 立って会話、電話、読書をする | 1.8メッツ | 3メッツ未満の生活活動(座位行動ではない) |
| 料理や食材の準備(立位・座位)、洗濯 | 2.0メッツ | 3メッツ未満の生活活動 |
| 普通歩行(平地、67m/分)、台所の手伝い | 3.0メッツ | 3メッツ以上の生活活動 |
| フロア掃き、掃除機 | 3.3メッツ | 3メッツ以上の生活活動 |
| 階段を下りる、風呂掃除、モップがけ | 3.5メッツ | 3メッツ以上の生活活動 |
表からわかるのは、「立っているだけ」でも座位行動からは外れ、家事のように少し体を使う動きになると、ガイドが推奨値の基準にしている3メッツ以上に届く行動も日常の中にあるということです。特別な器具や場所がなくても、動く材料はすでに家の中にあります。
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ガイドが示す身体活動と座位行動の推奨値
ガイド2023は、成人には歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)、高齢者には1日40分以上(1日約6,000歩以上)を推奨し、座位行動については座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意することを求めています(厚生労働省のガイド概要)。
ガイド2023の概要には、対象者ごとの推奨事項が一覧で示されています。成人については、3メッツ以上の強度の身体活動を「歩行またはそれと同等以上」で1日60分以上(1日約8,000歩以上、週23メッツ・時以上に相当)、運動として息が弾み汗をかく程度以上のものを週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日としています。高齢者については、3メッツ以上の身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上)に加え、有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動・柔軟運動などの多要素な運動を週3日以上としています。座位行動については、いずれの対象でも、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意するとされ、立位が難しい人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう少しでも体を動かすことが示されています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要))。
| 対象 | 身体活動 | 運動 | 座位行動 |
|---|---|---|---|
| 成人 | 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上) | 息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日 | 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意する |
| 高齢者 | 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日40分以上(1日約6,000歩以上) | 多要素な運動を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日 | 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意する(立位困難な人も少しでも体を動かす) |
| こども(身体を動かす時間が少ないこどもが対象) | 中強度以上の身体活動を1日60分以上 | 高強度の有酸素性身体活動や筋肉・骨を強化する身体活動を週3日以上 | 身体を動かす時間の長短にかかわらず座りっぱなしの時間を減らし、特に余暇のスクリーンタイムを減らす |
ガイドは、これらの数値を「すべての人が等しく取り組むべき基準」とは位置づけていません。概要には、「基準」という表現が全ての国民が等しく取り組むべき事項であるという誤解を与える可能性を考慮して、名称を「身体活動基準」から「身体活動・運動ガイド」に変えたと書かれています。また、全体の方向性として「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことが示されています。
この記事を読むうえでの実践的な意味は次のとおりです。8,000歩や60分という数字に届いていなくても、それだけで「失敗」ではありません。ガイド本編の高齢者版のQ&Aにも、毎日6,000歩も歩けそうにない場合でも、少しでも身体活動をしたほうが健康によいことがわかっているとして、まず今よりも10分多く身体活動をするよう心がける「プラス・テン」が紹介されています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
自分の座る時間を見える化する
座りっぱなし対策の最初の一歩は、動く前に「一日のうち何時間くらい座っているか」を大まかに把握することです。細かく測る必要はなく、朝・昼・夜の三つの区切りで、座っていた時間の見当をつけるだけで十分です。
e-ヘルスネットによると、座位行動は、仕事の形態やライフスタイルの差異にもよりますが、起きている時間のうちの6割近くを占めることが知られています。また、平成25年の国民健康・栄養調査では、平日1日の総座位時間が8時間以上と回答した人が男性で38%、女性で33%にのぼったとされています。この調査は平成25年のもので、在宅ワークが広がる前のデータである点には注意が必要です(参照:e-ヘルスネット「座位行動の定義とその実態」)。
在宅ワークでは、この数字と自分を単純に比べるよりも、「自分の一日の中で、どの時間帯に座りっぱなしが集中しているか」を知るほうが役に立ちます。次の表は、記録のつけ方の「仮の例」です。実際の時間ではなく、書き方の見本としてご覧ください。
| 時間帯 | していたこと(仮の例) | 座っていた長さの見当 | 気づいたこと |
|---|---|---|---|
| 午前 | メール対応と資料作成 | ほぼ席を離れなかった | 飲み物を補充する以外に立っていない |
| 昼 | 台所で昼食、そのまま席でスマートフォン | 食事のあとも座り続けた | 食後に座る流れができている |
| 午後 | オンライン会議と作業 | 会議中は動けなかった | 会議と会議の間に立つ余地がある |
| 夜 | 夕食後にソファでスマートフォン | 長く座っていた | 仕事後も座位が続いている |
この記録で見るべきなのは、「座っていた時間の合計」より、「座りっぱなしが切れない場面」です。仮の例では、食後・会議の前後・夕食後という三つの場面が、動きを差し込む候補として見つかりました。自分の記録でも、同じように「切れ目のない場面」に印をつけておくと、後の章で選ぶ動きを決めやすくなります。
記録は一週間分を続ける必要はなく、まずは平日のうち二日間ほどで十分です。手帳やメモアプリに時間帯と一行のメモを書くだけで済ませ、正確さを求めすぎないでください。負担を感じて記録そのものが続かなくなると、対策の入口でつまずいてしまいます。
座位を「中断する」という考え方
座りっぱなし対策で大切なのは、長く座り続けないように、座る時間を途中で区切ることです。ガイドは、長時間の座位行動をできる限り頻繁に、例えば30分ごとに中断することが重要であるという報告を紹介しています。
ガイド本編の成人版の解説には、座位時間が長くなるほど死亡リスクが増加することが、34件のコホート研究を統合したメタ解析で報告されている、と書かれています。同じ解説の中で、長時間の座位行動をできる限り頻繁に(例えば、30分ごとに)中断することが、食後血糖値や中性脂肪、インスリン抵抗性などの心血管代謝疾患のリスク低下にとって重要であることも報告されている、と紹介されています。さらに、強度を問わず、少しでも身体を動かすことが健康によい影響を及ぼすことが報告されている、とも書かれています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
ここで、読み方の注意を二つ添えます。ひとつは、これらは観察研究などをもとにした「報告」であり、誰にでも同じ結果を約束するものではないことです。もうひとつは、「30分ごと」はあくまで例として示された数字で、守れなかったら意味がなくなるという線引きではないことです。ガイドのQ&Aにも、身体活動には「20分以上継続しなければ効果がない」といった最短持続時間はなく、短い時間の積み重ねでも健康増進効果は得られる、と書かれています。
在宅ワークで「中断」を実行する際は、休憩というより「立ち上がる小さな用事」と捉えるとやりやすくなります。中断のための用事を一覧にしたのが次の表です。どれも1〜2分程度で済み、専用の道具は要りません。
| 中断の方法 | 動きの中身 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 飲み物を取りに行く | 席を立って台所まで歩く | 作業がひと区切りついた時 |
| 電話は立って受ける | 立位で会話をすると座位行動から外れる(立位の会話はガイドの表で1.8メッツ) | 音声だけの通話や、着信のあった時 |
| 郵便物や荷物を取りに行く | 玄関まで歩く | 配達の通知が来た時 |
| 洗濯物を一つ動かす | 洗濯や片づけなどの家事(洗濯はガイドの表で2.0メッツ) | 洗濯機の終了音が鳴った時 |
| 立ってメモを読み返す | 読書や会話を立位で行う(1.8メッツ) | 書いた文章の見直しの時 |
中断のきっかけは、時計だけに頼らないほうが続きます。タイマーは慣れると無視してしまいやすいので、「洗濯機が止まったら立つ」「電話が鳴ったら立つ」のように、すでに発生している出来事に結びつけると、思い出す手間が要りません。
家の中でできる「ながら」の動きを増やす
家の中で体を動かす一番の近道は、専用の運動時間を作ることではなく、家事や身支度などの生活活動に、少し動きを足して回数を増やすことです。ガイドも、家事や仕事のすきま時間に体操などで身体を動かすことが効果的だと述べています。
ガイド本編の成人版の解説には、運動だけでなく、家事や仕事などの生活場面でも身体を動かすことを勧めている、と書かれています。例として、家事(買い物・洗濯・掃除)や通勤(自転車・徒歩通勤)で身体活動を増やせることが挙げられ、家事や仕事のすきま時間に体操などで身体を動かすことも効果的だと述べられています。同じ資料の高齢者版のQ&Aには、家事(掃除、料理、洗濯)のような低強度の活動(1.6〜2.9メッツ)を増やしたり、外出したりすることで、自然と座位時間が減る、という趣旨の説明もあります(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
次の表は、在宅ワークの一日の流れに、ガイドのメッツ表にある動きを重ねたものです。メッツ値は、ガイド巻末の表(国立健康・栄養研究所の表の改変)にある値をそのまま使っています。
| 場面 | 差し込む動き | ガイドの表のメッツ値 |
|---|---|---|
| 仕事を始める前 | 掃除機やフロア掃きで部屋を一回り | 掃除機・フロア掃き:3.3メッツ |
| 午前の作業の合間 | ゆっくり歩いて飲み物を取りに行く | ゆっくりした歩行(家の中):2.0メッツ |
| 昼食のあと | 食器の片づけや台所の手伝い | 台所の手伝い:3.0メッツ |
| 午後の作業の合間 | ストレッチングをする | ストレッチング:2.3メッツ |
| 仕事を終えたあと | 階段の上り下り、または風呂掃除 | 階段を下りる・風呂掃除:3.5メッツ、階段をゆっくり上る:4.0メッツ |
| 就寝前 | 家の中で行う軽い体操 | 体操(家で、軽・中等度):3.5メッツ |
この表は、全部を毎日こなすためのものではありません。自分の記録で「切れ目のない場面」だった時間帯に合うものを、まず一つか二つだけ選んでください。増やしすぎて負担になるのが、いちばん続かない原因になります。
なお、ストレッチングは2.3メッツで、ガイドの推奨値の基準となる3メッツには届かない低強度の活動です。ただし、座り続けている状態から立ち上がって体を動かす意味はあるので、「3メッツ未満だから意味がない」と考える必要はありません。ガイドの考え方は、強度を問わず、今よりも少しでも多く身体を動かすというものです。
家事を増やすのではなく、むしろ家事の負担を減らしたい場合は、仕事の予定を先に組んで生活の時間を確保する考え方が役立ちます。動くための時間は、空いた時間ではなく、あらかじめ予定に入れた時間のほうが確保しやすくなります。
歩数の目安と、在宅で歩数が減る問題への向き合い方
在宅ワークでは通勤がなくなるため、意識して外に出ないかぎり歩数は減りやすくなります。ガイドは、成人は1日約8,000歩以上、高齢者は約6,000歩以上を推奨値に対応する歩数として示しています。全体の方向性は「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことで、高齢者版のQ&Aには、届かない場合でもまず「今より10分多く」から始める考え方が載っています(厚生労働省のガイド本編)。
ガイドの概要には、成人の推奨事項として、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上行うことを推奨し、これは1日約8,000歩以上に相当すると書かれています。高齢者は1日40分以上で、1日約6,000歩以上に相当します。ガイド本編は、この推奨事項がわかりにくい可能性があるため、おおむね相当する「1日60分以上の身体活動」や「1日8,000歩以上」を伝えるように示しています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
歩数計やスマートフォンの歩数機能を見てみると、在宅ワークの日は出社の日よりも歩数が大きく減っていることに気づくかもしれません。ここで、目標の数字に届かないことを責めるのは逆効果です。ガイド本編の高齢者版のQ&Aには、毎日6,000歩も歩けそうにない、という疑問に対して、毎日6,000歩は歩けなくても少しでも身体活動をしたほうが健康によいことがわかっている、という回答が載っています。まずは今よりも10分多く身体活動をするよう心がけましょう(プラス・テン)、という提案です(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
プラス・テンを在宅ワークの一日に当てはめた「仮の例」を、次の表にまとめました。分数は考え方の見本で、実際の日課に合わせて調整してください。日数や時間はあくまで一例です。
| 追加する時間(仮の例) | どこで足すか | ポイント |
|---|---|---|
| 朝の始業前に少し | 玄関の外に出て、家のまわりを歩く | 始業前の区切りとして使える |
| 昼食後に少し | 買い物や郵便ポストへのお使いに歩いて行く | 用事と組み合わせると続けやすい |
| 終業後に少し | 夕食の前に、近所を歩く | 仕事のオンオフの切り替えにも使える |
どの時間帯に足す場合でも、無理のない範囲で、天候や体調を見て中止してかまいません。歩数を毎日かならず達成することを目標にするのではなく、「今日は昨日より少し多く歩けた」という積み重ねで見ていくほうが、心理的な負担が小さくなります。
子育てと在宅ワークを両立している場合は、まとまった時間を取るのが難しいこともあります。時間の組み立て方は育児と在宅ワークの両立について整理した記事で扱っています。ガイド本編のメッツ表には、こどもと遊ぶ(歩く・走る、活発に)が5.8メッツ、こども・動物と遊ぶ(立位、軽度)が2.8メッツと載っており、生活の中の関わりも身体活動として数えられます(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
外出が難しい日や、一人で出かけるのが不安な時間帯もあるでしょう。そうした場合は、家の中で行える動きや、日中に短い時間だけ外へ出る方法を組み合わせてください。孤独を感じやすい在宅ワークでは、外に出て人の気配を感じること自体が助けになる場合もあり、一人作業でも気持ちを保つ仕組みについての記事も参考になります。
運動として取り入れたい筋力トレーニング
ガイドは、成人に筋力トレーニングを週2〜3日行うことを推奨しています。ダンベルなどの器具がなくても、自分の体重を使った腕立て伏せやスクワットも筋力トレーニングに含まれます。
ガイド2023の概要では、筋力トレーニングを「負荷をかけて筋力を向上させるための運動」と説明し、筋トレマシンやダンベルなどを使用するウエイトトレーニングだけでなく、自重で行う腕立て伏せやスクワットなどの運動も含まれる、としています。推奨事項としては、成人は週2〜3日行うこと、また、この筋力トレーニングは週4メッツ・時の運動に含めてもよいとされています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
ガイド本編の運動のメッツ表には、ほどほどの強度で行う筋トレ(腕立て伏せ・腹筋運動)が3.8メッツ、筋トレ(スクワット)が5.0メッツ、楽な強度で行う筋トレ(腹筋運動)が2.8メッツと載っています。同じ「腹筋運動」でも、強度によってメッツ値が違うことがわかります(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
ここで、在宅ワークの一日に筋力トレーニングを入れる場合の考え方を整理します。座り仕事の合間に短い動きを入れるのと、まとまった筋力トレーニングの日を作るのは、別の役割です。中断のための動きは「座位を区切る」ためのもの、筋力トレーニングは「体に負荷をかける」ためのものと分けて考えると、混乱しません。
| 動き | ガイドの表のメッツ値 | 始める時の考え方 |
|---|---|---|
| 楽な強度の腹筋運動 | 2.8メッツ | まず楽な強度から始め、フォームを確認する |
| ほどほどの強度の腕立て伏せ・腹筋運動 | 3.8メッツ | 楽な強度に慣れてから、体の様子を見て少しずつ |
| スクワット | 5.0メッツ | 膝や腰に痛みや不安がある場合は、事前に医師に相談する |
新しく運動を始める場合の注意は、後の章でまとめて取り上げます。特に、腰・膝・関節に痛みや変形がある場合、高血圧や糖尿病などの持病がある場合は、自己判断で強度を上げず、医療機関に相談してから進めてください。
もっと本格的に体を動かしたくなった場合は、自宅での運動のほかに、ジムなどの外部の場を使う選択肢もあります。費用の目安や選び方は、女性向けのパーソナルジムの費用について整理した記事が参考になります。ただし、外部の場を使うかどうかは、この記事の対策とは別に、費用や通いやすさで判断してください。
座る環境と立つ環境を組み合わせる
座りっぱなし対策は、本人の心がけだけでなく、環境の整え方でも進められます。ガイドは、職場では座りすぎを避ける環境の整備や、立ち会議の導入、階段利用の促進などが、生活活動を増やす取組になると整理しています。
ガイド本編の「身体活動支援環境」の項目には、生活活動を促進する物理的環境の整備として、座りすぎを予防する職場環境の整備が含まれる、と書かれています。社会的環境の整備としては、立ち会議や階段利用の促進などによって、職場での生活活動が増加する、と整理されています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。これは職場を対象にした整理ですが、自宅で働く人が自分の環境を考えるヒントにもなります。
自宅に置き換えると、次のような工夫が考えられます。これは私の提案であり、ガイドが自宅向けに示した基準ではない点に注意してください。
| 工夫 | 期待できること | 試す時の注意 |
|---|---|---|
| 電話や音声だけの打ち合わせを立って行う | 座位行動の時間を減らす(立位の会話はガイドの表で1.8メッツ) | 足元が滑らないよう、床の状態を確認する |
| よく使うものを席から少し離れた場所に置く | 取りに行く動きが自然に増える | 仕事に必要なものまで遠ざけない |
| ごみ箱やプリンターを席から離す | 席を立つ回数が増える | 配線の位置や足元の安全に注意する |
| 階段のある家では、用事のたびに階段を使う | 階段の上り下りが生活活動になる | 荷物で視界が遮られる時は使わない |
机や椅子の高さ、照明など、座って作業する環境そのものの点検については、作業環境を厚生労働省の基準で点検する記事で詳しく扱っています。この記事では、座る環境を整えたうえで、立つ・歩く場面をどう組み合わせるかに絞っています。
立って作業するための机を買い足すかどうかは、費用と置き場所の問題でもあります。まずは、家にある高さのある棚やカウンターなどで、電話だけ立って行う試しから始めるのが、負担の小さい進め方です。
持病や痛みがある時の注意と、医師に相談する目安
持病がある人や、体に痛みがある人は、動き方を自己判断で増やさず、先に医師に相談してください。ガイドは、新たに運動を始める場合は、疾病の有無や状態、普段の身体活動量を踏まえて、開始して問題ないかを判断する必要があるとしています。
ガイドの参考資料「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」には、新たに運動を開始する場合の確認事項として、疾病の有無や状態、普段の身体活動量などを踏まえて運動を開始して問題ないかを判断し、必要に応じて医療機関を受診するなどして運動前の健康チェックを行うことが重要だと書かれています。高血圧がある人は、運動で血圧が上昇するため注意が必要であること、糖尿病がある人は、かかりつけの医師などに相談することが示されています。運動で悪化する腰痛・膝痛・関節の変形などの整形外科的な問題がある場合は、あらかじめ医師に相談する、低強度・短い時間から始める、該当箇所に負荷がかからない運動を選ぶ、といった工夫が挙げられています(参照:厚生労働省「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」)。
同じ資料には、安静時や活動中の兆候と症状として、胸部・頸部・頭・腕などの痛みや不快感、めまいや失神、動悸、通常の活動時の異常な疲労感や息切れなどが並べられ、確認するよう示されています。こうした症状がある場合は、動き方を工夫する以前の問題なので、まず医療機関に相談してください。
| 状況 | 資料に書かれている対応 | この記事での読み方 |
|---|---|---|
| 高血圧がある | 運動により血圧が上昇するため注意が必要 | 運動を増やす前に主治医へ相談する |
| 糖尿病がある | かかりつけの医師などに相談してから開始する | 自己判断で始めない |
| 腰痛・膝痛・関節の変形などがある | あらかじめ医師に相談、低強度・短い時間から、負荷がかからない運動を選ぶ | スクワットなどは相談してから |
| めまい・動悸・強い疲労感や息切れがある | 症状の有無を確認する事項として掲載 | 動く前に受診して相談する |
この記事で紹介した動きの多くは、家事や歩行といった日常生活の範囲に近いものですが、体の状態には個人差があります。「みんなできるはず」ではなく、「自分の体の様子を見て、無理のないところから」という姿勢を優先してください。
また、動いている最中に痛みや違和感が出た場合は、その場でやめて休んでください。続けるかどうかは、痛みが落ち着いてから、必要なら医師に相談したうえで判断します。
続けるための仕組みを作る
動く習慣を続けるコツは、やる気に頼らず、すでにある毎日の行動の直後に動きを結びつけておくことです。「コーヒーを入れたら台所で少し歩く」のように、行動と行動をつなげると、思い出す手間が減ります。
習慣化の方法として、「いつ・どこで・何をするか」を先に決めておく書き方があります。これは、この記事の中で私が提案する整理の仕方であり、公的なガイドが示した手順ではありません。書き方の例を、次の表にまとめました。
| きっかけ(すでにある行動) | 結びつける動き(仮の例) | 続ける工夫 |
|---|---|---|
| パソコンを閉じたあと | 家の中の階段を一往復する | 終業の儀式の一部にする |
| コーヒーや飲み物を入れたあと | 飲み終わるまで立ったまま過ごす | 座らずに済む場所にカップを置く |
| 洗濯機の終了音が鳴ったあと | 洗濯物を干す動きに、ストレッチを一つ足す | 音を合図と決めておく |
| オンライン会議が終わったあと | 席を立って、水を一杯飲みに行く | 会議の予定の直後に「立つ」と書いておく |
もう一つの工夫は、動けなかった日の扱い方を先に決めておくことです。「できなかった日は失敗」と考えると、一日途切れただけでやめてしまいやすくなります。ガイドの考え方にならい、「今日は少なかったが、明日また少し増やす」と切り替えられるようにしておくと、長く続けやすくなります。
記録は、動けた日を数えるほうが続きます。動けなかった日を数えると気持ちが下がるので、カレンダーには、動けた日だけ印をつけていく方法が向いています。空白の日があっても、その分を取り返そうとせず、次の日から通常どおりに続けてください。
休憩や睡眠を含めた、在宅ワーク中の休み方の全体像は、休憩習慣について書いた記事にもまとめています。動く習慣は、休憩の取り方と切り離さず、一日の流れの中で一緒に考えると無理がありません。
座りっぱなし対策の試し方を一週間に落とし込む
対策を一度に全部やろうとせず、一週間の試行として、記録・中断・ながら動きの三つを順番に足していくと、負担が小さいまま自分に合う動き方を見つけられます。これは、この記事の内容を実践に移すための私の提案です。
ここまでの内容を、一週間の試し方にまとめます。次の表は、日ごとの内容を「仮の例」として示したものです。実際には、自分の予定に合わせて入れ替えてください。日数や順序は一例にすぎません。
| 期間(仮の例) | やること | この日の目的 |
|---|---|---|
| 最初の二日 | 朝・昼・夜の座り方を短くメモする | 座りっぱなしが切れない場面を見つける |
| 三日目と四日目 | 電話や飲み物のタイミングで席を立つ | 座位を中断する場面を一つ決める |
| 五日目と六日目 | 家事や階段に、動きを一つ足す | ながら動きの候補を選ぶ |
| 七日目 | 一週間を振り返り、続けたい動きを一つだけ残す | 次の週に持ち越す習慣を決める |
振り返りの際は、「何ができたか」を先に書いてください。できなかったことを並べるより、うまくいった場面を確認するほうが、次の週の動機づけにつながります。もし、この一週間でつらさや体調の変化があった場合は、無理せず中止し、必要なら医療機関へ相談してください。
一週間を終えたあとは、残す動きを一つだけにして、その一つが自然に続くようになってから、次を足していく形が続けやすい進め方です。仕事の収入や案件を増やしたい時期に、体づくりまで一気に頑張ろうとすると、どちらも中途半端になりがちです。在宅ワークのはじめ方や仕事の探し方については、未経験の女性向けの在宅ワークのロードマップも参考になります。
もう一つ、休日の過ごし方も座り時間に影響します。平日に動きを増やせなくても、休日に外へ出る予定を入れることで、一週間の合計を整えやすくなります。休日の選択肢は、一人時間の過ごし方を並べた記事から探すこともできます。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 1日8,000歩に届かない日が続いています。意味はありませんか?
- 意味がないわけではありません。ガイドの全体の方向性は「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことです。また、ガイド本編の高齢者版のQ&Aには、毎日6,000歩は歩けなくても、少しでも身体活動をしたほうが健康によいことがわかっているとして、まず今より10分多く身体活動をする「プラス・テン」が紹介されています。数字は目安であり、届くかどうかで自分を評価しない使い方が向いています(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
- Q2. 30分ごとに立てなかった日は、意味がなくなりますか?
- そのようなことはありません。「30分ごと」はガイド本編が紹介する報告の中の例で、守れなかった日を否定する基準ではありません。ガイドのQ&Aにも、最短の持続時間や最低限の頻度はなく、短い時間の積み重ねでも健康増進効果は得られる、と書かれています。会議中などで立てない時間があっても、できる場面で区切れば十分です。
- Q3. 立って作業したほうがよいのでしょうか?
- ガイドは、立ち会議の導入や座りすぎを予防する職場環境の整備を、職場で生活活動を増やす取組として整理しています。自宅で立って作業することそのものを推奨する記述は、この記事で確認した範囲にはありません。まずは、電話を立って受けるなど、座位を区切る小さな工夫から試し、足腰に負担を感じたら無理をしないでください。
- Q4. 座位行動と睡眠や横になって休むことは同じですか?
- e-ヘルスネットの定義では、座位行動は「座位、半臥位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動」とされ、横になって休んだりテレビを観たりする状態も含まれます。定義の対象は覚醒している間の行動なので、眠っている時間を減らそうという話ではありません。睡眠や休養は、動くこととは別に大切にしてください(参照:e-ヘルスネット「座位行動の定義とその実態」)。
- Q5. 運動が苦手で、筋力トレーニングは続けられそうにありません。
- ガイドは、個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組むことを求めています。まずは座位を区切る動きと、家事や歩行を少し増やすことから始め、筋力トレーニングは体の様子を見てから加えても遅くありません。痛みや持病がある場合は、始める前に医師へ相談してください。
- Q6. 高齢の家族と一緒に動く場合、何に気をつければよいですか?
- ガイドの推奨値は、高齢者は成人と異なり、1日40分以上(1日約6,000歩以上)と多要素な運動を週3日以上とされています。立つことが難しい場合でも、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも体を動かすことが示されています。転倒や体調には十分注意し、必要なら主治医に相談してから進めてください(参照:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要))。
- Q7. スマートフォンを見る時間も座りすぎに数えますか?
- 座ったり寝ころんだりした状態でスマートフォンを見ることは、ガイドの座位行動の例に含まれています。仕事のあとにスマートフォンを見る時間が長い場合は、見ながら立つ、歩く、または見る時間の区切りに家事を挟むなど、座りっぱなしを途切れさせる工夫が役立ちます。
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まとめ
在宅ワークの座りっぱなし対策は、専用の運動を増やすより、座る時間を途中で区切り、家事や歩行などの生活活動を少しずつ足すことから始めると、負担が小さく済みます。ガイド2023は、成人に1日約8,000歩以上、高齢者に約6,000歩以上を目安として示しつつ、個人差を踏まえて可能なものから取り組むこと、今よりも少しでも多く身体を動かすことを基本にしています。
この記事の要点を三つに絞ると、次のとおりです。
- まず、自分の一日の中で座りっぱなしが切れない場面を見つける
- その場面に、電話を立って受ける、飲み物を取りに行くなどの小さな中断を結びつける
- 持病や痛みがある場合は、動き方を増やす前に医師へ相談する
数字に届かない日があっても、それは失敗ではありません。動けた日を数え、次の日にまた少しだけ足す形で、長く続けられる形に整えていってください。この記事の内容は、公的資料の文言に基づく一般的な情報の整理であり、個別の診断や治療の代わりにはなりません。体調に不安がある場合は、医療機関に相談してください。
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